大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台地方裁判所 平成4年(行ウ)7号 判決

宮城県塩釜市北浜四丁目一五番二〇号

原告

佐藤仁寿

同市旭町一七番一五号

被告

塩釜税務署長 片倉茂生

右指定代理人

平尾雅世

山口信治

木村慶一

小松豊

主文

一  本件訴えを却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

(請求の趣旨)

1  平成元年六月一〇日付け間酒三-二九五国税庁長官通達「酒類の販売業免許等の取扱いについて」に基づく原告の平成四年一月二九日付け酒類販売業免許の条件緩和申立てに対する被告の不作為が違法であることを確認する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

(請求の趣旨に対する答弁)

1  本案前の答弁

主文と同旨

2  本案の答弁

(一) 原告の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

二  当事者の主張

(請求原因)

1  原告は、平成元年五月二日、被告に対し、酒税法九条一項に基づき、輸入酒類卸売業の免許を申請し、同月六日、被告にこれが受理され、被告は、平成二年四月九日付けで、原告に対し、「自己が輸入した酒類の卸売販売に限る。」との条件を付けて酒類販売業を免許した。

2  その後、原告は、平成三年四月一日、被告に対し、平成元年六月一〇日付け間酒三-二九五国税庁長官通達「酒類の販売業免許等の取扱いについて」(以下「元年通達」という。)に基づき、洋酒卸売業への条件緩和の申請をしたところ、被告は、平成三年六月一日付けで、条件緩和を認め、「自己が輸入した酒類並びに果実酒類、ウイスキー類、スピリッツ、リキュール類、及び雑酒の卸売販売に限る。」との条件に改めた。

3  さらに、原告は、平成四年一月二九日、被告に対し、元年通達に基づき、全酒類販売卸売業免許への条件緩和の申立てをし、同日、受理された(以下「本件申立て」という。)。

4  ところで、元年通達の別冊「酒類販売業免許等取扱要領」(以下「元年要領」という。)第五章第一〇「免許事務の処理期間」によると、税務署においては申請書類を受理した日の翌日から最大限二か月、国税局においては申請書類の送付を受けた日の翌日から最大限二か月の合計四か月の期間と定められているが、本件申立ては、平成四年六月一八日の本訴提起時において、何ら被告の処分がないまま、同年一月二九日の申立時から既に四か月以上が経過しているから、被告の本件申立てに対する不作為は違法な状態にある。

5  よって、原告は、本件申立てに対する被告の不作為が違法であることの確認を求める。

(本案前の抗弁)

1  被告は、本件申立てに対し、平成四年一二月二五日付けで酒類販売業免許の条件緩和拒否処分をし、本訴の口頭弁論終結前である同月二六日、原告に対し、その旨を記載した通知書を送達したから、被告の不作為の状態は解消している。

2  よって、原告において、被告の不作為の違法確認を求める法律上の利益はもはや存在しないから、本件訴えは不適法として却下されるべきである。

(本案前の抗弁に対する認否)

本案前の抗弁1のうち、被告が本件申立てに対して酒類販売業免許の条件緩和拒否処分をし、本訴の口頭弁論終結前にその旨を記載した通知書が原告に送達されたことは認め、その余は否認ないし争う。

(請求原因に対する認否)

1  請求原因1ないし3の各事実はいずれも認める。

2  請求原因4のうち、元年要領第五章第一〇に、免許事務の処理期間について、税務署においては申請書類を受理した日の翌日から最大限二か月、国税局においては申請書類の送付を受けた日の翌日から最大限二か月との記載があること、本件申立て時から平成四年六月一八日の本訴提起時まで四か月が経過していることは認め、その余は争う。

(被告の主張)

1  元年要領第五章第一〇の柱書に「原則として」との記載があることから明らかなように、右に定める免許事務の処理期間は、例外を許さないというものではなく、また、一般に、法令に基づく申請に対して、行政庁がこれを処理すべき「相当の期間」とは、当該処分の性質、内容等により異なり、行政庁が当該処分をするのに必要とされる期間を基準としつつ、具体的事案において個別に判断せざるを得ないのであるから、右「相当の期間」と元年要領第五章第一〇にいう処理期間とは必ずしも一致しなければならないものではないのであって、これを同一視することは相当でない。

2  被告塩釜税務署管内に本件申立てよりも前に酒類販売業免許の条件解除の申立て(小売の条件を解除し卸売もできるようにする申立て)があったことから、本件申立ては、元年要領第三章第三の2「申請書の審査順位」に従って審査されたものであり、先順位である右申立ての処理の方向によっては酒類卸売市場の受給関係に与える影響が大であることから、この事案の処理の結果を十分見極めながら本件申立てについて慎重に判断したものである。

3  したがって、本件申立てから四か月以上経過していることのみをもって直ちに不作為の違法があるとする原告の主張は理由がない。

三  証拠

証拠関係は、訴訟記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  本案前の抗弁について

被告が本件申立てに対して酒類販売業免許の条件緩和拒否処分をし、本訴の口頭弁論終結前にその旨を記載した通知書が原告に送達されたことは当事者間に争いがない。

不作為の違法確認の訴えは、法令に基づく申請(申立て)に対する行政庁の不作為から申請者を救済するものであるから、訴えの提起時から口頭弁論の終結時まで、行政庁の処分又は裁決についての不作為状態が継続することを前提とし、訴え提起後であっても、行政庁によって処分又は裁決がされれば、もはや違法確認を求める法律上の利益がなくなるものというべきである。

本件においては、前記のとおり、被告により既に本件申立てに対する酒類販売業免許の条件緩和拒否処分がされているのであるから、訴えの対象である被告の不作為状態は、右処分によって解消されたものいわざるを得ない。

二  よって、原告の本件訴えは不作為の違法確認を求める法律上の利益が消滅しているのでこれを却下し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 飯田敏彦 裁判官 片瀬敏寿 裁判官 平田直人)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例